司法書士への少額訴訟の代理人の依頼についてのニュースをまとめました。(島田雄貴)


司法書士、民訴法改正で訴状依頼急増(2000年11月)

司法書士は不動産の登記手続きの際に利用するぐらいで、あまりなじみのない存在だった。しかし、弁護士には依頼しにくい少額の民事訴訟事件や、新しい成年後見制度などで活躍の場が広がり、一般の人が司法書士を頼む機会が増えている。現行の司法書士法が施行されて50年、関係団体も知名度を高めようとPRに力を入れている。

簡易裁判所での少額訴訟の助っ人に

司法書士に費用7万円で訴状を作ってもらう

神奈川県内の男性会社員(39)は6月に転居する際、賃貸マンションの敷金32万円を返してもらえなかった。それどころか、3年弱しか住んでいないのに修繕費が41万円かかるとして差額の9万円を請求された。これに納得できず、30万円以下の金額なら簡単な手続きで請求できる少額訴訟を決意。神奈川県司法書士会に電話で相談、司法書士に費用7万円で訴状を作ってもらい、自分で簡易裁判所に提出した。審理は12月の予定だ。

判決で勝訴しても弁護士費用のほうが高くなる
「判例も紹介してくれた」

少額訴訟は本人でもできないことはない。しかし、訴状に必要な証拠などについて詳しい知識が必要で、専門家の助けがいる。と言っても弁護士に依頼すると、少額訴訟では、たとえ判決で勝訴しても弁護士費用など裁判にかかる費用の方が高くなり、引き受けてもらえない場合もある。この会社員は「一人では訴状は書けなかった。判例も紹介してくれ、納得して提訴できた」と話す。

マンション購入時の登記手続き
法的な代理人になって法廷に立つことはできない

司法書士は、登記手続きの代理や訴状の作成を行う法律専門の職能だが、弁護士とは違って法的な代理人になって法廷に立つことはできない。このため、従来はマンションを購入した際などに登記手続きを依頼する以外に、一般の人が利用する機会はあまりなかった。

多重債務者の自己破産申請の書類作成も

しかし、民事訴訟法が改正され、少額訴訟を当事者が簡単に起こすことができるようになり、そのための訴状作成など一般からの依頼が増えてきている。また、多重債務者が自己破産を申請する時の書類作成の仕事も増えた。

成年後見センター・リーガルサポートを設置
後見人になる司法書士の名簿を家庭裁判所に提出

ほかにも、日本司法書士会連合会(東京)では、認知症(痴ほう症)の高齢者などの財産管理を手助けする新たな成年後見制度が4月にスタートしたのに合わせ、後見人などを務められる人材の育成を目的に「成年後見センター・リーガルサポート」を設立。各地の支部で介護保険などの研修を積ませ、その名簿を後見人を選定する家庭裁判所に提出しており、9月末までに47人が後見人に選ばれた。

脱「登記の専門家」

こうした状況に、従来の「登記の専門家」のイメージを変えるために、神奈川県や京都府、愛知県の司法書士会などでは少額訴訟や多重債務についての無料の相談窓口を開設してPRに努めている。

身近な法律問題についてアドバイス

司法書士会連合会の斎木賢二副会長は「登記の専門家としてだけではなく、法律の範囲内で身近な日常問題についてアドバイスできる専門家集団を目指していきたい」と話している。

連合会では12月2日、東京都新宿区の司法書士会館で今後の司法書士のありかたを考えるシンポジウムを開く。

準少額訴訟(2002年7月)

簡易裁判所が「30万円」超でも簡単手続き

三十万円以下の金銭請求を簡単な手続きでできる少額訴訟が好評な中、これを少し超えた額の訴訟にも同じような手続きを適用する動きが、全国各地の簡易裁判所で広がっている。三十万円を超える訴訟も対象にしてほしいとの声を反映させたもので、敷金の返還請求など身近な訴えがさらにしやすくなりそうだ。

敷金返還訴訟
1回で和解

埼玉県内のAさんは昨年十一月、三年間借りた都内のマンションから引っ越した際、敷金三十二万円を返還してもらえなかった。このため今年一月、不動産会社を相手取り、東京簡裁に敷金返還を求める民事訴訟を起こした。同簡裁は少額訴訟同様に簡単な手続きで行う「準少額訴訟」として扱うことに決定した。同社は返還を拒否したが、同簡裁は、同社がAさんに二十万円払うとの和解条件を提示、わずか一回で決着した。

簡裁が通常の訴訟事件の中から扱うものを決める

東京簡裁は、準少額訴訟を二〇〇〇年六月に始めた。三十万円を超える金銭請求や建物明け渡しの場合でも可能。上限は簡易裁判所で扱える九十万円まで。ただし、貸付金の取り立てなどのケースは扱わない。同簡裁の鈴木信幸裁判官は「少額訴訟は原告が訴えを起こす際に選ぶが、準少額訴訟は、簡裁が通常の訴訟事件の中から扱うものを決める」と説明する。

解決事件数が急増

本格的に始めた昨年五月以降、解決した事件は、最初の三か月は百八十八件だったが、今年四月までの三か月は二百八十一件に増えた。「扱えるものは、すべて扱うのが理想」(鈴木裁判官)として、準少額訴訟の定着を図る。大阪や福岡、高松をはじめ、全国各地の簡裁でも同じような取り組みが行われている。

。東京簡裁の少額訴訟の受理件数

こうした広がりを見せているのは、少額訴訟制度が好評で、三十万円を超えるケースにも簡単な手続きを求める声があるからだ。東京簡裁の少額訴訟の受理件数は、九八年の約千五百件から、昨年は二千三百件に増え、今年も四月末までに八百五十件に上る。

日本司法書士会連合会

日本司法書士会連合会(東京)の裁判事務推進委員会の藤田貴子委員長は「請求額を減らしてでも、少額訴訟をしたいという人が少なくない。条件の緩和を求める声は大きかった」と話す。

少額裁判サポートセンター

少額、準少額訴訟の増加に対応し、代理人を立てずに訴訟を起こす人を支援する体制作りも進んでいる。同連合会(03・3359・4171)は今月、全国五十か所の司法書士会に「少額裁判サポートセンター」を開設、司法書士が無料で相談を受けている。

日本消費生活アドバイザー

日本消費生活アドバイザー・コンサルタント協会の土田あつ子さんは「簡単な手続きが広がるのは、また一歩前進」と話す。

少額訴訟とは
未払い賃金の請求など

民事訴訟法の改正で、一九九八年から導入された。敷金返還や未払い賃金の請求などで、請求額が三十万円以下の訴訟を、原則一日の審理で解決する。代理人を立てずに、訴訟を起こしやすくなった。