伊賀の外国人ワーカーサポート

(2010年6月16日、朝日新聞)

自動車部品製造工場

自動車部品製造などの工場(メーカー)で勤務する外国人労働者が多い三重県伊賀市。人口約10万人のうち、外国人登録者数は約5000人と、比率の高さは全国的にも有数だ。地域に住む外国人たちとの共生を目指して、多くの人々が活発な活動をしている。

ブラジル人、ペルー人、中国人

「契約書に簡単にサインしない。いらないと思ったときは、はっきり断ってください」。悪質な訪問販売の手口を再現した寸劇のビデオを上映したあと、講師が説明した。2010年5月下旬に伊賀市上野中町の上野ふれあいプラザで開かれた「悪徳商法撃退セミナー」には、伊賀市内に住むブラジル人やペルー人、中国人ら十数人が参加した。

スペイン語や中国語で通訳

外国人がマルチ商法や悪質な訪問販売の被害に遭わないようにとNPO法人「伊賀の伝丸(つたまる)」が県の委託を受けて企画。クーリングオフ制度やローンなどの金利の仕組みについても説明し、伝丸のスタッフがスペイン語や中国語で通訳した。伝丸では2010年5月27日に「ごみの分別」についてのセミナーも予定している。

夫がインドネシアに海外赴任

文書の翻訳や通訳を手がける「伊賀の伝丸」は、1999年4月に発足。「多文化共生はまちづくりにとって重要。外国人も暮らしやすくしていかなくてはならない」。代表の和田さんは説明する。活動のきっかけは、1992年にさかのぼる。商社マンだった当時の夫の海外赴任で、インドネシアで生活した。頼れる人もなく心細かったときに、日本語に精通した現地の友人ができ、楽しく生活ができたという。

帰国後、伊賀に戻ったときに、伊賀市内のスーパーで野菜を見ながら悩んでいるインドネシア語を話す外国人を見かけ、「以前の私と同じ」と思って話しかけた。その後、「困っている外国人の役に立ちたい」と通訳ボランティアを始めた。

ポルトガル語の翻訳も

翻訳や通訳をしていると企業や行政に出す文書などの知識も必要になり、「交流だけではない難しい問題」にも直面、伝丸を設立した。現在、専属の職員が7人、通訳登録者約90人、会員は約60人。有料でポルトガル語やスペイン語、タイ語など八つの言語に対応。行政、企業への文書だけでなくラブレターの翻訳もする。配偶者と母国に帰った子どもに送る手紙の翻訳を頼む人もいるという。

伊賀市内の外国人登録者数は4829人

亀山に次ぐ比率

伊賀市では、日系外国人と家族の在留資格が緩和された1990年の出入国管理法の改正後、在住外国人が急増。県生活・文化部国際室などによると、2009年12月現在の伊賀市内の外国人登録者数は4829人。市民の4.79%にあたり、県内では亀山市の5.30%に次ぐ高さだ。

半分がブラジル人

国籍では、ブラジルが5割強、中国が約2割、ペルーが1割ほどで、計40カ国にのぼる。

東京と愛知に次ぐ多さ

2008年12月の県別の外国人の割合は、東京都が3.13%で最も高く、愛知県3.09%、三重県が2.83%で続いている。

日本語指導ボランティア

伊賀市のNPO法人「ユニバーサルデザイン同夢」(孫美知代表)は、2009年7月から9月にかけて、外国人に日本語を教える人材養成を目的に「にほんご指導ボランティア養成講座」を実施、24人が計8回の講座を受けた。

不況で派遣切りも

「不況で派遣切りにあう外国人も増えたが、日本語ができないため就職の面接を受ける機会を逃している。日本語を習いたい外国人は多いが、教えることができる人材が不足している」と孫代表。2010年も9月から11月にかけて実施する予定だ。

青年海外協力隊

この講座で講師の一人だった「伊賀日本語の会」代表の菊山さんは、青年海外協力隊の一員として南米パラグアイで生活。帰国後は、スペイン語通訳や小学校の授業で児童らに多文化共生について話もしている。伊賀日本語の会では2009年4月から7月にかけて、求職中の定住外国人を対象とした「仕事のための日本語講座」も開いた。「外国人も同じ住民として、一緒に伊賀のまちを住みやすくしていきたい。仲間としてつながっていくことが、多文化共生と思う」と菊山さんはいう。

市役所の多文化共生係

また、伊賀市では2010年4月から、市役所の市民生活課に多文化共生係を設置。これまで週1回だった、外国人住民に対する生活相談を、ポルトガル語は月から金曜日の5日間、中国語は月、火、木に受け付けるようにしている。